このHELLSINGという作品は、アーカードの過去(100年前)について、ブラム・ストーカーの小説『ドラキュラ』をふまえた内容になっているのですが、p181~183の記述については、かなりHELLSINGオリジナルの要素がふくまれています。
その辺りに注意しつつ、以下ちまちま見ていくと…
「かつてある吸血鬼が英国にやって来た」
これはブラム・ストーカー版の、1世紀前の8月8日にドラキュラ伯爵がイギリス上陸を果たしたことをふまえているようです。
「自らが渇望する一人の女を手に入れるために」
ここはHELLSINGオリジナル。「一人の女」とはおそらくはミナ・ハーカー*をさしていると思われますが、ブラム・ストーカー版では伯爵は「えさ場」を求めてロンドン移住を決意しているようです。
…というか「アーカードってそんな過去が??」「長生きしてるだけあって、インテグラが最初の女ではなかったって事かっ!!」みたいな…しかも「渇望」っていかにも吸血鬼らしいですよね(笑)
「その吸血鬼がのり込んだ帆船は~皆殺しにしながら」
ここははほぼブラム・ストーカー版通り。
ちなみに帆船というのはスクーナーです。
「そして遂に死人と棺を満載した幽霊船はロンドンへ着港した」
これはかなりHELLSINGオリジナル。
ブラム・ストーカー版7章では伯爵はヨークよりもさらに北のウィットビー(Whitby)に上陸します。
しかも星なんか見えないような嵐の中のでできごとです。
ただし霧に包まれるくだりは両者共通。
それにしてもアーカードにロンドン橋までぶち抜かれ、よってたかってロンドンめためたにされ放題です(苦笑)
ブラム・ストーカー版も「着港」というおだやかなものにはほど遠く、かなりの勢いでテイト・ヒル埠頭の砂山にのりあげ、満潮近くの海を犬の姿で伯爵が飛び越え、上陸しています。**
この時積んでいた土の入った木箱(伯爵の寝床)は50と船長の死体(他の船員は行方不明になったり、投身自殺)ですから、今回の棺は1つとかなり控えめですが、それでも「棺を積んだ船でイギリス上陸」というのは、100年前をかなりふまえているといえます。
「船の名はデメテル号 ロシア語でデミトリ号である」
なんだかくどいというか、いささか仰々しいですが(苦笑)、デメテル号 the Demeterはブラム・ストーカー版も同様。
ちなみに文献1の注(p416)によると、1885年にロシア帆船ディミトリー号が嵐にあってテイト・ヒル埠頭に座礁する事件は実際にありまして、ブラム・ストーカーもコレをふまえているそうなのですが、ひょっとするとHELLSINGはこの1885年の事件も意識しているのかもしれません。
なにはともあれ、今回はめちゃめちゃ笑顔がまぶしい姿見のまま、御大のご入場です。
それにしても2巻の王立軍事博物館、キャスター作 マモン平原会戦のウスター伯ヴィランデル図の会見を、ここにきて引っぱってくるとは、ますます芝居がかっててステキです。
それもこれも、少佐のあのセリフの布石に過ぎないのかもしれません。
「かくして役者は全員演壇へと登り 暁の惨劇(ワルプルギス)は幕を上げる」***
「役者は全員そろい、人と人でなしが相見えるワルプルギスの夜のようなこの戦争も、いよいよ暁(大詰め)を迎えようとしている。」ということでしょうか。
読んでるこちらは、次巻が「ああ待ち遠しいですわ!悲劇ですわ!喜劇ですわ!」と言ったところでしょうか…
*ミナ・ハーカー:イギリス上陸の時点ではまだミナはジョナサン・ハーカーと結婚していないので正確にはミナ・マリ
**流水と吸血鬼については、くましょこの3巻第1話−2参照。
***演壇:演壇は、演説する人が登るもので、役者は舞台に上がるものだと思っていたのですが、このいいまわしもかなり独特ですよね。